小さな花たち

旅先や日々の生活で見過ごされそうなひとときを、思いのままに綴ります

小さな幸せのつながり

ある日、混雑した電車の中に、後ろから押し込まれるようにして乗った。電車が発車し、ほっと一息ついたとき、目の前のボックス席の窓際の席で、男性が折り紙で鶴を折っていた。揺れる電車で、折り紙を固定するテーブルもないところで、器用にすごいスピードで折っていく。しかも、その折り鶴を一つ一つつなげて、きれいな形にしていく。混雑した電車内でのストレスや疲労感など、どこかに吹き飛び、その見事な手さばきに見入ってしまった。きっと、これから向かうどこかで、これをもらうのを楽しみに待っている人がいるのだろう、今、そこに行く途中で、急いで折り続けているのだろう。

そう思っていると、次の駅に電車が着いた。多くの人が降りていく。そして、その男性も。ああ、ここで降りちゃうんだ。もうあの折り鶴ショーを見れなくなるのか、と残念に思っていると、あの折り鶴を窓際の席に残したまま、男性は電車を降りていった。えっ?あれ~!? これ、忘れ物ですよ~、と声をかけそうになったが、明らかに忘れ物ではない様子で、その男性はそれを置いて降りていった。前のボックス席が空っぽになったので、私と夫は、その窓際の席に向かい合って腰かけた。二人で、窓際に置かれた折り鶴をじっくり鑑賞して、そのひとときを楽しませてもらった。多分、単なる趣味で折り鶴を折り続けていたのかな、誰にあげるわけでもなく…。折ること自体を楽しんでいたのかな…。

私たちが降りる駅が近づいてきた。本当は、この折り鶴を持ち帰って飾りたい気分だった。でも、ふと考えた。あの男性は、ここにこれを置いていき、こうやって後に座った人が、電車でのひとときを楽しめるようにしてくれたのだろう。それならば、私たちがこれを持っていってしまってはダメじゃないか。また後にここに座る人のために置いておこう、と。

今、あの折り鶴がどうなったのかわからないけれど、またあの席に座った人を楽しませたに違いない。そして、もし誰も持ち帰らずにそれをそこに置いたままにしていたならば、最後に見るのは、終着駅で降車確認をする運転士さんや駅員さんだ。あの折り鶴が、緊張感のある仕事での疲れを癒したに違いない。そして、運転士さんなどが、それをそのままにしておいてくれたならば、始発駅で電車に乗り、この折り鶴を目にした人の心を潤すのだろう。そうやって、小さな幸せが続いていく…。

こんなことを考えるときにぴったりなのは、私の大好きなJohnny Hates Jazz のこの曲だ。

(288) Johnny Hates Jazz - Spirit Of Love (Official Video) - YouTube