小さな花たち

旅先や日々の生活で見過ごされそうなひとときを、思いのままに綴ります

夕刻の城

夕暮れ時に、小田原駅からお堀端通りを通ってお城まで行った。たまたま近くに来る用事があったので、かなり昔、訪れたことのあるこのお城に来てみたかったのだ。もう日も沈んでしまい、辺りは薄暗い時間帯。すでに閉館してしまっている時刻だが、夕暮れ時にお堀端通りを散策するのは、風情があっていい。

城址公園のお堀にかかる赤い橋に多くの鳥が集まっていた。橋や橋を渡ったところにある二の丸広場には、まだ人通りがあり、散歩をしている人の姿も。何年ぶりかでこのお城を間近で見たが、まず感じたことが、こんなに小さかったかな、ということだ。ずっと来ていなかったから、記憶があいまいでそう思えたのかもしれない。ただ、よく考えてみて、その理由がなんとなくわかった気がした。

これまでこの城以外にもいろいろなお城を訪れたが、いつも日中の時間帯に、わざわざお城を見に行くために足を運んできた。今回のように、閉館時間を過ぎて薄暗くなってから、たまたま立ち寄る、というのは初めてだ。日中、青い空を背景に、日の光を浴びて光り輝くお城を見ると、その迫力に近寄りがたい印象すらある。しかし、薄暗いところでひっそり佇む城は、そういった雰囲気ではない。薄暗さの中で、風景やほかの建物と一体化している。とりわけこのお城は、山の上やアクセスが困難な場所に建てられているわけではなく、人が行き交う通りから入ることができる。こういったことから、この城がより近い存在に感じられ、小さく見えてしまったのではないか。

近寄りがたく、別の時代の建造物としてお城を見る、というのとは違う、現代の建物や生活に溶け込んだ一つの建物として見てみると、夕方にお城の広場を散歩している人と同じ気分になれる。歴史的建造物に日常的にふれられる生活-憧れである。しばし地元の人と同じ感覚で、城とお堀端通りが演出する夕暮れ時の特別な時間を楽しんだ。

小田原城(神奈川県)