小さな花たち

旅先や日々の生活で見過ごされそうなひとときを、思いのままに綴ります

心を強くもって…


決して近くにあるわけではないのに3回も足を運んだ神社は、ここしかない。そこに行く一般的なルートは、駅からバスで1時間以上かけて行く方法だ。しかし3回目は、表参道を歩いて訪問した。神社の「表参道」。ここで、平坦で散策するのに楽しい道のりを想像する人も多いだろう。しかし、この神社は標高1100メートルのところにあり、表参道とは、3.7キロの登山道である。車道ができるまで、参拝者が歩いた道である。

訪れたのは、晩秋。最初は、枯れ木や滝などの風景を楽しみながら進む。しかし途中から、だんだんきつくなってくる。そもそも最初から登山道を通って参拝する人の数はそれほど多くないのだが、ゆっくり歩いているうちにどんどん抜かされ、やがて一人になってしまった。自分の足が止まると、落ち葉を踏みながら歩く音も聞こえなくなり、静寂に包まれる。クマが出ると言われている場所だけに、恐怖が襲ってくる。

道がたくさんの落ち葉で埋もれ、足元ばかり見ていると、行くべき方向が分からなくなる。だから、ときどき顔を上げて、数メートル先くらいの進むべき方向を確認しながら進む。さわさわと風に木が揺れる音がするが、その木々を見上げても、ゴールである神社の建物の影すら見えない。「まだまだ修行が足りないぞ」と、言われているかのようだ。この神社には、弱い気持ちを持って行ってはだめだ、というのを何かで読んだことがある。今回はいつも以上に、その心意気を試されているかのように感じた。

ようやく上のほうで、人声が聞こえてきた。私がこの神社で一番好きな場所である奥宮遥拝殿が見えた。バスで来て、最初に本殿に行くと、この場所はやや遠い奥のほうにある。しかし、登山道から来ると、出口はここにつながっていた。遥拝殿は、正面の岩峰にある奥宮を遥拝する場所だが、私が来るときはいつも霧で包まれ、何も見えない。しかしその霧の中の遠くを見ていると、表現できないパワーで体中が満たされるように感じる。霧で何も見えなくても、ずっといたいと思う場所である。

三峯神社(埼玉県)